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適正人件費から考える「給与の3倍稼いで一人前」の意味(後編)

適正人件費から考える「給与の3倍稼いで一人前」の意味(後編)

 アクタスHRコンサルティング株式会社

適正人件費から考える「給与の3倍稼いで一人前」の意味(後編)

前回のコラムでは、労働分配率の概念と人件費管理におけるKPIとしての意義について触れました。後編では、労働分配率を用いて「給与の3倍稼ぐ」の意味を少し掘り下げてみます。

労働分配率は「人件費÷付加価値」ですから、これを逆数にすると「付加価値÷人件費」となります。これは、人件費に対して何倍の付加価値(≒粗利益)を生み出しているかと同義であり、いわば「人件費生産性」とも言える指標です。

経産省の企業活動基本調査によると、2019年度の労働分配率は全産業で50.1%ですから、人件費生産性でいえば約2倍です。つまり、平均的には人件費の2倍の粗利益を稼いでいるわけです。それなら「給与の2倍稼げば十分では?」と疑問に思うかもしれません。

しかし、会社が支出する人件費は、従業員に直接支払う給与や賞与、退職金だけではありません。会社負担分の社会保険料、社宅や人間ドック等の福利厚生費、さらには求人費や研修費用といったコストも要します。また、どの企業でも人事・経理などの間接部門の人件費は、直接部門の稼ぎによって成り立っています。

よって、営業などプロフィットセンターの中核社員においては、自分の給与額面の3倍くらい売上を稼いでもらわないと、会社として十分な粗利益(付加価値)が出せないという結論に帰結します。実際には、その会社のあるべき労働分配率は業種や業界内での給与水準に依存しますので、必ずしも3倍稼ぐことが必要であるとは限りません。とはいえ、適正人件費の考え方からしても、説得力のある目安であることは確かです。

ここまで前編と後編の2回に分けて、「給与の3倍稼いで一人前」の意味を解いてきましたが、いかがだったでしょうか。経営的にも意味のある数字を本人目線でシンプルな言葉に置き換えているところが、この言葉の絶妙さと言えるでしょう。

<著者>
アクタスHRコンサルティング株式会社
シニア人事コンサルタント
宮川 淳
【プロフィール】
人事制度設計から、労務監査等の人事コンサルティングをメインに活動。制度設計だけでなく、実務に根ざした現場レベルでの運用アドバイスを行っている。
【企業URL】https://actus-hrc.jp/

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