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「紙文化」から脱却できない経理部門と大阪の都構想否決

「紙文化」から脱却できない経理部門と大阪の都構想否決

 中田 清穂(なかた せいほ)

「紙文化」から脱却できない経理部門と大阪の都構想否決


2020年11月1日の住民投票で、大阪都構想は否決されました。

反対69万2996票、賛成67万5829票で、その差は約1万7000票という、大変な僅差だったようです。
ここでは、大阪都構想の是非を扱うわけではありません。
ただ、この問題の報道を見ていると、「現状維持バイアス」という言葉が頻繁に出てきます。

「現状維持バイアス」は、心理学用語のようです。現状をそのまま保持しようとする心理作用のことで、人はだれでも未知なものや未体験のものに恐怖を感じるため、現状を保とうとする傾向を持っているようです。

この「現状維持バイアス」は、損失回避の心理にも関連しているようです。これは、新しいものを得られる幸せよりも、それまで持っていたものを失う苦痛の方を大きく感じてしまうというもので、結局何も変えない「現状維持」をしようとするのです。

「現状維持バイアス」には大きな問題があることが指摘されています。現状を変えた方が合理的なのに、現状維持を選択するからです。
結果として、利益を逸してしまうのです。

今回の大阪都構想には、「都」にした方が合理的な面が多くあったとされています。
「都」にするために多額のコストが発生するデメリットもあったようです。
こういったメリット・デメリットを「合理的に」判断して投票が行われたのであれば、まさしく住民が真剣に判断した結果だと言えるでしょう。
しかし、合理的な判断よりも「現状維持バイアス」が強く働いた結果だとすると、大阪の経済的発展や無駄な行政の回避など、住民にとっても「利益」を逸することになってしまったのではないかと心配されます。


本当にどちらが良かったのかは私にはわかりません。
ただ、この一連の報道を見ていて感じたのは、「どこか、日本企業の経理部門に似ているな」と感じたのです。

何が似ているかというと、2005年に制定されたe文書法で、社内の議事録や契約書は、「紙」ではなく電子情報として保存することが法的に可能になったのに、ずっと「紙」のままです。
また、2015年の電子帳簿保存法大改正で、3万円以上のエビデンス(領収書、請求書、契約書など)を「紙」ではなく電子情報として保存できるようになったのに、依然として「紙」のままです。
エビデンスを「紙」ではなく「電子情報」として保存することのメリットは多くあります。
  1. 電子情報は、回線がつながっていてPCなどの端末があれば、「いつでも」「どこでも」見ることができます。
  2.  (1)によりテレワークの実現可能性が飛躍的に高まります。これにより、感染症から社員や家族を守れますし、経理業務をストップさせずにすみます。
  3. 「紙」は一つしかないので、消失した場合には復元できませんが、電子情報は、複数サーバでの保存などにより、複数にできますので、一つのサーバの情報が消失しても、復元が容易です。
よく「費用対効果がない」ということで、エビデンスの電子化を進めないと言われますが、メリットは「費用対効果」だけではないのです。
(1)から(3)で触れたように、社員の健康と安全、経理業務の継続性(BCP)、経理業務の生産性向上などのメリットもあるのです。
そういったメリットには目と耳をふさぎ、「費用対効果が明確でない」と言うだけで、エビデンスの電子化をあきらめるのは、「現状維持バイアス」にかかっているのではないかということを、一度自分で問うことに意味があるように思います。

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