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経済産業省の憂い

経済産業省の憂い

 中田 清穂(なかた せいほ)

■経済産業省との意見交換の依頼

先日、経済産業省経済産業政策局企業会計室(以下、経産省)から、意見交換をしたいという依頼があり、応じました。
意見交換は、現在上場企業が開示している情報に関連して、以下の4項目について、広く意見を聞く活動の一環ということでした。
disclosure

① 現行のディスクロージャー制度等に対する課題(開示に対するガバナンスを含む)
② 開示に対する経営者層の意識
③ 開示プロセスにおける企業内の横断的連携体制の実態
④ 企業が決算業務改善等の新しい取組を進めるにあたって留意すべきポイント 等

■私の意見

企業の情報開示は、かねてより私の研究テーマであったため、事前に私の意見をまとめた資料を14ページに渡って用意しました。
以下は、私から説明した内容です。

(1) 企業サイドと投資家サイドの間の重要な経営指標のギャップ

現行のディスクロージャー制度等に関する最大の課題は、改正されている開示制度の趣旨を、企業がきちんと理解せず、依然として、「横並び」で「画一的」な開示をし続けていることだということです。
そして、企業のこのような開示の状況について、投資家サイドも強い不満の声をあげていないということです。
企業がろくな開示をしていなくても、投資家サイドが強い不満を言えば、企業側も開示内容を改善する可能性が出てくると思いますが、投資家は沈黙しています。
しかし、企業側が中期経営計画などで開示している経営指標と、投資家が必要としている経営指標が合っていないことは、一般社団法人生命保険協会などでの調査で明らかになっています。
具体的には、企業は「売上」や「利益」を中心とした経営指標を開示しているのに対して、投資家は、ROE、ROIC、資本コストなどの経営指標を開示してほしいと考えているのです。

(2) 経営者における教育の問題

企業サイドと投資家サイドの間に重要な経営指標のギャップが生じる原因として、「教育」の問題があります。
「教育」というのは、「ビジネス実学」ともいうべき、ビジネスを行うために必要な教育です。
これが日本では満足に行われていません。
日本の大学や大学院では、「経済ビジネス系学部」として、経済学部、経営学部、商学部などがあげられます。
しかし、各学部においては、「国際金融論」や「マクロ経済学」などの専門学者が教壇に立って、自分の専門領域の講義を行います。
しかし、そういった学問が「ビジネスにどう役立つのか」「ビジネスをする上でどのように活用すれば良いのか」といったことは教えていません。
だから、日本の大学を卒業してすぐに企業できる人材はほとんどいないのです。
アメリカなどとは全く違うのです。


■経産省の反応

上記の私の意見に対して、経産省は、企業と投資家の建設的な対話を促進するために、開示省令が改正されても、企業の情報開示は、依然として形式的かつ表面的であることに、大きな疑問があったが、教育に問題があるという視点は、全くなかったとのことです。
そういうことなら、上場企業の取締役を教育することが重要と思うがどうかという質問がありました。

■経産省の反応に対する私の意見

上場企業の取締役を教育することに対する私の考えとしては、「今の取締役はそのほとんどが、日本の4年制大学を卒業して就職している。したがって、ビジネスをする上で、重要な判断を行うための、会計、財務及び統計といったリテラシーが乏しいので、すでに取締役になっている人を教育することは、あまり効果が無いと思う」と答えました。
従って、今から教育するのであれば、これから経営者になる中堅社員を教育することが、より有効であろうということです。
その場合には、大学を始めとする、日本の教育機関を利用するのではなく、アメリカの教育機関に留学させる制度(補助金など)が有効だろうということもお話しました。

このコラムでご紹介した内容は、今回の意見交換のほんの一部です。したがって、その他にもいろいろお話しました。
経産省が、私の考えをどこまで理解しているか分かりません。
ただ、今回のように、 私のような者にも意見を聞いて、今後の政策のヒントを得ようとしている態度について、本当に困っているのだなと思うとともに、少し変わっていくかもしれないという希望が持てるように感じました。


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