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『制管一致』を揺るがし始めた会計基準(収益認識)

『制管一致』を揺るがし始めた会計基準(収益認識)

 中田 清穂(なかた せいほ)

■新しい会計基準を管理会計に使いたくない経営者

売上高を計上する際の大原則となった新しい会計基準「企業会計基準第29号『収益認識に関する会計基準』」(以下、「新基準))の適用が、2021年4月1日から始まりました。

この会計基準が適用されるにあたって、経営管理に使用する実績数値を制度会計に準拠した数値をベースにする考え方(以下「制管一致」)をやめてしまう企業の話を耳にするようになりました。

具体的に言うと、「業績管理で使う売上高は、新基準ではなく、従来の売上計上方法で算出した数値にしたい」という要望が、経営者側から上がってきているということです。
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■新基準の主な論点

この問題を理解するために、新基準の主な論点を以下にあげます。

(1) 出荷基準から検収基準に:

従来は、製品を工場や倉庫から出荷したタイミングで売上を計上していました。
いわゆる「出荷基準」です。
しかし、新基準では、出荷時ではなく、お客様に製品が届いて検収をしていただくまで、売上が計上できません。
これが「検収基準」です。

(2) 値引・返品があるビジネスの処理:

過去、値引きや返品が発生したことがあるビジネスでは、今年販売した製品についても、値引きや返品が発生する可能性があります。
新基準では、将来の値引きや返品が発生するであろう「時期や金額」を見積もって、その見積額を、販売金額から控除した金額で、売上高を計上しなければなりません。

(3) 製品を仕入れて加工もしないでそのまま販売する取引の処理:

商社やSIer(システムインテグレーター)のように、他社製品を仕入れてお客様に販売する場合、従来であれば、仕入と売上の両方を計上することができました。
しかし、新基準では、仕入と売上の両建てで計上することができません。
売上から仕入を差し引いた粗利の金額だけを、マージン収益として計上することになります。

(4) 請負契約が事業年度をまたぐ取引の処理:

いわゆる「工事進行基準」や「完成工事基準」の要件が変わったことから、従来では「工事進行基準」で計上していた取引を「完成工事基準」で計上しなければならなくなったり、その逆に、従来では「完成工事基準」で計上していた取引を「工事進行基準」で計上しなければならなくなったりする可能性があります。


実務的には、新基準の要件を詳細に検討しなければ、適切な対応はできません。
また、各論点が、ビジネス全体にとって重要でなければ、従来通りの売上計上手続きを続けいることに問題はありません。

■業績管理に与える影響

上述した論点について、結果的に売上高の数値が大きく変わると、社内では以下のような問題が発生します。
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(1) 営業部門や事業部門における問題:

営業部門や事業部門など、売上が発生する現場では、それまで売上を計上してきたタイミングや金額とは、制度会計上、異なる売上が計上されることになります。
 i. 出荷しても売上が計上できない
 ii. 契約・注文通りに販売しても、その金額よりも小さい金額で売上が計上される
 iii. マージン部分しか販売成績にならず、成績が大きく落ち込む感じになる
 iv. 長期請負契約の売上が、従来とは全然違う金額やタイミングになる
などなどです。

(2) 経営者における問題:

経営者は、営業部門や事業部門から上がってきた売上実績を聞いて、予算や計画に対して、イケているのかイケていないのか、詳細な分析や報告がなくても、直感的にアタリがつくものです。
しかし、上述した論点での売上計上方法が大きく変わってしまうと、これまでの直感的なアタリが通用しなくなります。
これは、経営判断の間違いを引き起こしかねない大問題です。

■結果的に制管不一致となる考え方

したがって、経営者は、新基準に準拠して売上を計上することは、制度会計上はしかたがないとしても、経営管理や、営業部門や事業部門での業績管理のためには、従来通りの売上計上方法を引き続き継続させたいという要望が出てくるのです。

しかし、これは結果的に「制管不一致」の考え方になります。
なぜなら売上金額を、制度会計上は新基準に準拠するが、管理上は従来通りの処理にするということですから。

日本企業のほとんどが、「制管一致」で管理会計の財務数値を作成しています。
その最大の理由は、最終的に株主総会で報告・承認される財務諸表と異なる数値で経営管理を行うことは、経営者の責任を適切に果たすことができなくなる危険があるからです。

「経営がしにくいとか、経営判断を間違える」ということで、売上だけは、制度会計と異なる数値で管理をしようとしている企業が少なくないようです。
しかしその結果、普段、経営管理資料で経営判断をしておいて、年度末にまとめられ、作成された決算書を見て、大きくずれてしまった時に、経営者はどうするのでしょうか。
そんなズレが発生して困ることまでイメージしていないのではないでしょうか。
ここに今後の大きな問題が潜んでいるように感じます。

■本来社内でなされるべき議論

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つまり、「場当たり的な感覚」で、管理目的の会計処理を考えていると、大きな問題が潜んでいることに気が付かないということです。
会社にとって、「売上高」は、最も重要な勘定科目だと言って良いでしょう。
それもそのはず、損益計算書の一番上にある勘定科目ですから。
その最重要の勘定科目の取扱いを、十分に議論しないで決めることに重大な問題があるのです。

まずは、新基準の「本質」を理解することが最も重要な第1歩です。
これは言い換えると、「わが社にとっての売上とは何か」を経営者から営業の現場部門、さらには、経理・企画部門を巻き込んで議論・検討して、社内の合意を形成することが必要なのです。

例えば、工場や倉庫から出荷したタイミングで、「売り上げた」と言えるのかという議論です。
お客様から注文があり、それを出荷してもそのタイミングでは、注文を果たせてはいないのです。お客様が満足するタイミングではないのです。
お客様に注文の品が届き、それが注文通りであることを、お客様が確かめたときに、「会社として注文を果たした」と言えるのではないでしょうか。
だから、会社としては、「出荷してバンザイ」ではなく、「お客様のお手元にきちんと届くまでが、会社としての販売活動なのだ」という合意を、会社全体で作りあげることが大切なことではないでしょうか。

このような議論がきちんと行われていれば、「業績管理で使う売上高は、新基準ではなく、従来の売上計上方法で算出した数値にしたい」という要望は、考えもつかないのではないでしょうか。

 

 

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