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地球温暖化が進むと自社の業績はどうなる??

地球温暖化が進むと自社の業績はどうなる??

 中田 清穂(なかた せいほ)

■地球温暖化に関する世界機関の評価

今や地球温暖化の問題を全く知らない人はいないと思います。
しかし、地球温暖化の問題が自社の業績(売上や利益)と強く関連していると思っている人はそれほど多くないのではないでしょうか。
しかし、最近は金融庁もこの問題を取り上げるようなっています。
今回は、金融審議会ディスクロージャーワーキンググループの資料から解説を行います。

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(1) 気候変動関連の評価を行うIPCC

IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change/気候変動に関する政府間パネル)は、1988 年に世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)により設立された組織です。
活動目的は、人間の活動が原因となる気候変動とその影響、それから、気候変動に適応するための方策や変動を緩和する方策に対して、科学的、技術的、社会経済的な見地から包括的な評価を行うことです。
これまで、5回にわたって報告書を公表してきました。
そして今年8月に第6次評価報告書が公表されました。

(2) IPCCの第6次評価報告書のポイント

① 地球温暖化の現状
「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」という断定的な表現が初めて用いられました。これまでは、「可能性が極めて高い」という表現で断定的な表現ではなかったのです。
つまり、気候変動は自然に発生しているのではなく、工業化などの人間の活動によった引き起こされているということが断定されたのです。

また工業化が始まる前と比較すると、工業化によって世界平均気温は、既に約1.09℃温暖化しているということです。
つまり、温暖化は今後の将来の話ではなく、すでにどんどん進行しているのだということです。

② 温暖化の将来の見通し
最悪シナリオでは 2081~2100 年に 4.4℃の温暖化になる可能性が高く、最も楽観的な排出がゼロとなるシナリオでは、2050 年に1.6℃以内に抑えられる可能性が高いということです。
つまり、温室効果ガス排出量が非常に低く抑えることができるシナリオであっても、さらに1.5℃の地球温暖化となるのです。

③ 地球温暖化の影響
地球温暖化がすでに熱波、豪雨、熱帯低気圧(台風)などの極端気象の発生に影響を及ぼしており、これらは高い確信度で人間の影響によって発生していて、さらに地球温暖化が進むごとに、熱波、豪雨などの極端な現象の強度と頻度が増加していくということです。

熱波、豪雨、熱帯低気圧(台風)などは、日本では特に影響の大きな自然災害ですね。

■地球温暖化に対する投資家の関心

上記のように、地球温暖化はすでに、人々の生活に影響を及ぼしていて、これからさらに大きな影響を及ぼすようになるはずです。
当然、皆さんの企業活動においても全く同じ話です。
したがって、地球温暖化に対して、各企業がどのように考え、対応しようとしているのかについて、投資家が強い関心を持つようになってきています。

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(1) ブラックロックの動き

ブラックロックは、世界最大の資産運用会社で、運用総額は約7兆ドルです。
この世界最大の機関投資家が、投資先企業と顧客投資家に対し、ESG を軸にした運用を強化すると表明してます。
さらに、同社は、カーボン・ニュートラルの実現へ向けて、投資先企業に対して、ビジネスモデルをどのように適合させていくかについての計画の開示等を求める旨を表明しています。

(2) ブラックロックの具体的な方針

ブラックロックが表明した方針の一部を具体的に示すと以下のようになります。

① サステナビリティ関連の情報開示等において十分な進展を示せない企業に対して、 反対票を投じることを積極的に検討する。
② 2020年半ばまでに売り上げの 25 %以上を石炭から得ている企業への投資をやめる。
③ SASBに従った情報開示と、 TCFD の提言に沿った気候関連リスクの情報開示を行うよう企業に対して求める。
④ 今後数年間にESG 関連の ETF の数を倍増する。
⑤ 資産売却の検討を促す警告を含め、重大な気候変動リスクを有する資産の運用管理について「厳格な精査モデル」を導入する。
⑥ 上場企業だけでなく、非上場の大規模企業や公社債の発行体も、気候関連リスクへの対応について開示すべきである。

企業活動をする上で、資金が必要な企業にとっては、投資家の関心を無視することはできなせん。
ましてやそれが世界最大の機関投資家となると、社会への影響力もあります。
特に⑥の「非上場の大規模企業や公社債の発行体」にも言及しているので、銀行などの融資活動への影響が想定されますし、この問題を金融庁が取りあげていることから、一般企業の皆さんへの影響も避けられず、ただ事ではないと考えた方が良さそうです。

■ 日本企業における気候変動関連の開示事例

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このような背景の中で、日本においても気候変動に関連した開示を行う企業が出てきています。
ここでは、Jフロントリテイリングが2020年2月期の有価証券報告書で開示している内容を見てみます。
以下が、「事業等のリスク」で開示されています。

重要なパラメータ(指標) 2030年時点を想定した当社グループへの財務影響
項目 1.5℃~2℃未満シナリオ 3℃シナリオ
炭素税 炭素税価格(千円/t-CO2) 10 3.3
炭素税課税に伴うコスト増 1,165 384
再エネ由来の電気料金 再エネ由来の電気料金の価格増(円/kWh) 1~4
再エネ由来電気の調達コスト増(百万) 164~658

温暖化によって、炭素税が上がることと、再生エネルギー(再エネ)由来の電気を使う必要が出てくるので電気料金が上がることが、財務数値に影響を及ぼすことが表現されています。

もし、温暖化を1.5℃~2℃までに抑えるような動きが世界的に広がれば、自社では炭素税の負担が、1,165百万円増加し、電気料金も、164百万円から658百万円の幅で増加することを予想しているのです。

このような開示がすでに日本でも始まっています。
これは本来投資家向けの話ではありません。
本来、自社が気候変動に対してどのように受け止めて、どのように対応するべきかを、経営課題として真剣に検討して、「自発的に」アクションを起こすべきなのです。
そして、最終的には、売上や利益などの財務数値への落とし込みをするところまでこぎつけないと、経営アクションとしては片手落ちになります。

財務・会計に強いみなさんの、腕の見せ所ではないかと思います。

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