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有給休暇引当金を計上しないケース

 中田 清穂(なかた せいほ)

有給休暇引当金の論点は、日本の会計基準とIFRSで相違があるとされるケースが非常に多いようです。

しかし、有給休暇について負債を認識することは、日本の公認会計士には馴染みがなく、たとえ馴染みがあったとしても、米国基準に基づく処理に対して理解や経験があるのであって、決してIFRSベースの理解ではないことに、十分な注意が必要です。

米国基準ベースでの有給休暇の負債認識は、「期間損益適正測定」の観点、すなわち「損益中心」であり、IFRSベースでの有給休暇の負債認識は、「資産・負債中心」なのです。

日本の有給休暇制度では、退職時に未使用の有給休暇の権利について会社に買い取ってもらえることがほとんどないので、IAS第19号「従業員給付」の第13項にある「権利確定する」有給休暇がほとんどないことになります。

したがってこのコラムでは、「権利確定しない」有給休暇のみ取扱います。

IAS第19号「従業員給付」第13項に以下の記載があります。

(中略)債務は、従業員が将来の有給休暇の権利を増加させる勤務を提供するに従って発生する。
有給休暇が権利確定しない場合でも債務は存在し、したがって、認識される。
ただし、権利確定しない(有給休暇の)権利の累積について、従業員がこれを使用する前に離職する可能性を、当該債務の測定に影響させる。

重要なポイントは、最後の文章です。
「従業員がこれを使用する前に離職する可能性」というのは、退職する際に有給休暇を消化しないで退職する可能性です。

私は、監査法人からコンサルティング会社に転職しましたが、監査法人でもコンサルティング会社でも、退職する際にはそれまでの有給休暇は全て消化しましたし、それが当たり前の雰囲気でしたので、何の後ろめたさもありませんでした。
したがって、退職する際に有給休暇を消化しないでやめるということは、信じられないと言っても良いくらいです。

しかし、日本企業とりわけ製造業の多くでは、退職時にほとんど有給休暇を消化しないで会社を辞めることが、それほど珍しくないようです。

このような場合には、退職した人が退職した年にどれだけ有給休暇の権利を放棄してやめているのかについて実態調査して、有給休暇の負債を計上する際の測定に反映させる必要があります。
極端な場合には、退職した人がほとんど有給休暇をとらないようであれば、有給休暇引当金は計上しないことになるでしょう。

例えば、過去3年間の退職者の未消化率を算出して利用することが考えられます。
この場合、有給休暇引当金の計算は以下のようになります。

期末有給休暇引当金
=全従業員の期末有給休暇未使用日数 × 平均賃金 × (1 - 過去3年間の退職者の未消化率)

米国基準では、上記計算式の「1-過去3年間の退職者の未消化率」に対して、「過去3年間の有給休暇消化率」が利用されることが多いと思われますが、これは前述のように、米国基準ベースでの有給休暇の負債認識は、「期間損益適正測定」の観点、すなわち「損益中心」だからです。
米国基準は、「今年働いたことによって得られた権利が次期以降に行使されるのであれば、行使する期ではなく、働いた期の収益に対応させよう」という考えなのです。

これに対して、IFRSでは、「今年働いたことによって得られた権利が退職するまでに行使されるものが負債である」という考え方なのです。

もし、この考え方について会計監査人と対立する場合には、ぜひIAS第19号「従業員給付」第13項の最後の文章に目を通していただいてその解釈をきちんとしていただくことが重要でしょう。

以上

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