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第32回 「任意適用積み上げの動向と強制適用の可能性」|IFRS徹底解説

第32回 「任意適用積み上げの動向と強制適用の可能性」|IFRS徹底解説

 中田 清穂(なかた せいほ)

最近、IFRSの動向について質問されることが増えてきました。

質問は主に以下の二つです。

  1.  IFRSの任意適用はどのくらい増えるか
  2. 「当面」先送りされている「強制適用」の可能性はまだ残っているのか

この二つの質問には関連性があります。

任意適用が「顕著に」採用されているレベルに達しないと、「強制適用」の要求が、俄然、高まってくるからです。

そういう意味では、任意適用が「顕著に」採用されるかどうかが、第一に重要なポイントになります。

私は、「強制適用」になる可能性は低いと考えています。
すなわち、任意適用が「顕著に」採用される状況になる可能性が高いと考えているのです。

その最大の根拠は、強制適用にするのか任意適用を継続するのかを判断する金融庁が、任意適用拡大の必要性を明確に示し、実際に手を打ち始めているからです。

そして、監督官庁である金融庁からの要請を受けた東証は、2015年3月31日以後に終了する通期決算に係る決算短信から、「会計基準の選択に関する基本的な考え方」を開示することを、2014年11月に上場会社に要請しました。

これは、2014年6月24日に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2014 -未来への挑戦-」における「IFRSの任意適用企業の拡大促進」についての提言を踏まえたものだと、東証は説明しています。

2014年11月に東証が公表した「決算短信・四半期決算短信の作成要領等(2015年1月版)」には、以下の記載があります。

(e)「会計基準の選択に関する基本的な考え方」

  • 会計基準の選択に関する基本的な考え方を記載してください。
  • たとえば、IFRSの適用を検討しているか(その検討状況、適用予定時期)などを記載することが考えられます。

もともと、決算短信の開示・提出は、法律上の規定がないので、東証の「自主ルール」です。

金融庁は、時々この手を使います。

法律改正には、それなりに手続きと時間がかかります。

しかし、東証の自主ルールであれば、法律改正の手続きを踏むことなく、ある程度の効果が望めるのです。

「自主ルール」といっても、ほぼ100%の上場企業が順守しているので、効果は絶大です。

東証の自主ルールが「ソフトロー」の一種だと言われるのもこのためです。

その「自主ルール」で、IFRSを検討しているかどうかを開示するよう、「要請」しているのです。

義務ではありませんが、従わない場合には、「日本取引所自主規制法人」などから、「どうして要請を受け入れてくれないのか」といった「質問」があるかもしれません。

なんだかいやらしいお話です。

こういった「要請」や「質問」は、日本企業には大変効果があるようです。

四半期開示の早期化を「要請」されたときにも絶大な効果がありました。
従わない企業は、1社1社呼び出され、「強く要請」されたのです。

さて、「IFRSは強制適用になるまで検討しない」と決め込んでいた企業は、決算短信でどのように開示するのでしょう。

「弊社は、IFRSの強制適用が決定されるまで検討する予定はありません」と、正直に表現するのでしょうか。

その企業に海外投資家が投資していても、IFRSを全く検討しないということは、投資家の判断に有用な、比較可能性を高める情報を作成する姿勢が疑われるのではないでしょうか。

この東証の「要請」が、実際にどの程度の効果があるかは、わかりません。

しかし、重要なことは、このような動きを、東証と金融庁がし始めたという「変化」なのです。

つまり、「本気」だということです。

業界のリーディング・カンパニーの一部からは、実際に金融庁に呼び出されて、「どうしてIFRSを採用しないのか」という「質問(プレッシャー)を受けているといった話も漏れ聞こえ始めました。

もし、こういった動きの中で、さらに任意適用を行う業界が増え始めると、その業界の他の企業は、「横並び意識」が働いて、IFRSを採用する動きにつながる可能性があります。

商社や製薬会社の業界は、そういったわかりやすい動きを示しています。

「強制適用の可能性は低いが、任意適用が拡大する可能性は高い」といった根拠の一部が、以上です。

もはや「ノーケア」ではいられないと思います。

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