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影響度調査の盲点

 中田 清穂(なかた せいほ)

今回は、「影響度調査」をする上で、おろそかになりがちな観点についてお話したいと思います。

影響度調査を自社で自力で行う場合でも、監査法人に協力してもらっている場合でも、以下のような観点がおろそかになり、問題が生じやすいようです。

連結の観点

親会社、販売子会社、製造子会社、海外会社など、拠点別の「影響度調査表」や「Fit&GAP表」を作成して、会計差異を把握していくアプローチだと、連結決算ベースの会計方針、決算業務及び連結決算システムへの影響に気がつかない。

例1)

IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」に基づくと、親会社が他へ販売する商品を仕入れる際に、子会社を通す場合には、当該子会社は「代理人」として取り扱われます。
となると、当該子会社では、売上高を総額計上できず、仲介手数料として、純額でしか損益計算書に計上できません。
当該子会社は親会社に対する手数料収入を計上し、親会社は当該子会社からの仕入れを計上するので、連結決算システムの定義設定を変えないでおくと、連結決算手続きでの「損益取引の消去仕訳」を適切に作成できなくなる恐れがあります。

例2)

IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」に基づくと、販売時にボリュームディスカウントなどが予想できる場合、その予想される値引きを差し引いた額で売上高を計上することとなります。

製造子会社が親会社などに製品を売却する場合で、ボリュームディスカウントは親会社が年間取引量で決定するような場合には、四半期の時点では、値引き率が確定していませんが、製造子会社は、1年後に親会社が決める値引き率を予想して、四半期の売上高から差し引く必要があります。

このようなケースは自動車産業によく見受けられます。

しかし、製品を購入する親会社は、四半期では仕入れについて値引きを考慮しません。
このように、連結消去手続きの際に、売上高と仕入高の突き合わせが煩雑になるケースがあるのです。
したがって、このようなケースを見落とさないようにするためにも、個社ごとの調査だけでなく、連結ベースでの影響も常に念頭に置く必要があるのです。

会計基準間の関連性の観点

会計基準の論点別に調査をしていくアプローチだと、他の会計基準の論点の影響を受けることに気がつかない。

例1)

棚卸資産会計の会計基準の差異はあまりないが、有形固定資産会計や退職給付会計で相違がある場合、日本基準とIFRSとで有形固定資産の減価償却費や退職給付費用の算出額に違いが生じ、結局製造間接費として原価計算に影響を与えるので、棚卸資産の金額にも違いが発生します。

システム関連の観点

会計基準の論点別に調査をしていくアプローチだと、一つのシステムにどのような影響があるのかが把握しづらい。また、システムに重要な影響があるのに、検討が後回しになり、システム対応が遅れてしまう。

例1)

会計基準の論点別に日本基準とIFRSの相違を洗い出し、会計システムでの対応を検討すると、一つひとつについては、複数帳簿を持つ必要はなく、修正または組替仕訳で対応できそうな場合も多いでしょう。しかし、直接法のキャッシュ・フロー計算書への対応のための勘定科目体系や、遡及処理への対応を合わせて検討すると、複数帳簿システムの方が、実は、導入期間や導入コスト、さらには業務効率についても、合理的な場合があるのです。

例2)

会計基準の論点別の検討の際に、貸借対照表や損益計算書などの「基本財務諸表」に関心が集中しがちで、注記などの検討がおろそかになりがちです。

IFRSの注記のボリュームは、予想外に膨大で、しかもひな型や標準フォームなどはなく、企業ごとに実体に合った表現をするのが原則なので、形式もばらばらです。

したがって、各システムから注記に必要なデータを取り出せるようにする必要がありますが、大体注記関連の検討は後回しにされるので、実はシステム変更をともなう注記事項への対応が、間にあわなくなり、結局決算担当者があちこちのシステムのアウトプットからエクセルなどに転記する業務が爆発的に増えるのです。

経営管理上の観点

会計基準の差異ばかりに気を取られて、経営情報に関して混乱が発生することを見落とす。

例1)

「最低限のIFRS対応が基本」ということで、原価計算も日本基準ベースとIFRSベースで計算し、経営情報としては従来の日本基準ベースの原価を使用し、開示用としてはIFRSベースの原価を採用することにすると、社内に2つの原価が存在することになります。

製造業にとって製品原価は、ビジネスそのものですが、それが2つあると、混乱を招くでしょう。

影響度調査が終わっても安心しないで、上記観点がもれていなかったかどうか、確認することが望まれます。

以上

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