日本の会計・人事を変える。”もっとやさしく””もっと便利に”企業のバックオフィスを最適化。

最終回 「日本の会計基準とIFRSの「強制適用」」|IFRS徹底解説

最終回 「日本の会計基準とIFRSの「強制適用」」|IFRS徹底解説

 中田 清穂(なかた せいほ)

2017年7月、企業会計基準委員会(ASBJ)は、売上高を「いつ」「いくらで」計上すべきかを規定する新しい会計基準の公開草案を公表しました。

企業会計基準公開草案第61 号「収益認識に関する会計基準(案)」です。

すでに意見募集期間は終了し、70件以上に上る意見を審議し始めています。

2018年3月には最終化され、日本で初めて「売上の計上」に関する包括的な会計基準が、正式に生まれることになります。

ただ、日本の会計基準であるにもかかわらず、「収益認識に関する会計基準(案)」をよく見ると、以下のような表現があります。

「IFRS 第15号の定めを基本的にすべて取り入れる。」(第92項)

IFRS 第15号というのは、国際会計基準(正式には、国際財務報告基準)の売上の計上に関する会計基準で、「顧客との契約から生じる収益」という名称の会計基準です。

すなわち、今回日本の会計基準設定機関であるASBJが公表した「収益認識に関する会計基準(案)」は、日本の会計基準であるにもかかわらず、国際会計基準の規定をそのまま「丸呑み」しようということです。

これは、その是非の議論は別としても、非常に重大な意味を持つことになります。

このコラムを閲覧されている方々の多くは日本の会計基準で経理・決算業務を行っている方がほとんどだと思います。
そして、そのほとんどの企業が、金融庁がIFRSの強制適用を決めない限り、自社はIFRSの任意適用はしないこととしていると思います。

しかし、IFRSを適用していないつもりでも、「売上の計上」に関しては、事実上、IFRSを「強制的に適用せざるを得ない」状況になってしまうと言えるでしょう。
少し解説すると以下のような論理展開になります。

  1. 日本基準を採用している企業は、2018年3月にFinalになる「収益認識に関する会計基準」を適用しなければならない。
  2. その内容は、IFRS第15号とほとんど同じものである。
  3. 結局、日本基準を採用しているのに、IFRS第15号を提供するのと同じ対応が必要になる。

という、単純な3段論法です。

2009年から2011年にかけて、日本中に「IFRS強制適用」の嵐が吹き荒れたとき、IFRS対応の論点の中で、最もハードルが高いと言われていたのが、「収益認識基準」への対応でした。

その対応をこれからすべての上場企業が強いられることになるのです。

今後は、IFRSを作成している国際会計基準審議会(IASB)がアメリカと共同で開発した「リース会計基準」に対して、ASBJは対応を迫られるでしょう。

2007年に、ファイナンス・リースをオンバランスにすることを求める「リース会計基準」ができて、日本のリース会計も国際的なレベルに追いついたはずでした。

しかし、IFRSとアメリカの会計基準が、オペレーティング・リースもオンバランスにすることを求める大幅な改訂を行ったために、再び大きな会計基準差が開いてしまっているのです。

すなわち、IFRS、アメリカ、日本の会計基準の中で、日本だけがリース取引の一部(オペレーティング・リース)をオンバランスにしていない会計基準になってしまっているのです。

したがって、「収益認識に関する会計基準」が2018年3月に完成した後は、ASBJは、再び日本の「リース会計基準」の改訂、具体的には、すべてのリース取引をオンバランス化する改訂に着手するでしょう。
そのスケジュール感は、おそらく、1年以内での最終化です。

さらにその先にあるものは・・・。

いよいよ、「IFRSの強制適用」です。

IFRS対応の中で非常に負担が重いとされてきた「収益認識」と「リース」に関して、日本基準の改訂の過程の中で、有無を言わせずIFRS対応させた後は、日本基準を採用する企業にとって、IFRSに変更する際に負担の重い論点がほとんどなくなり、「すべての企業にIFRSを強制適用させても、それほど大変な企業はないだろう」という考えがあるのです。

したがって、これからの、日本基準の動向や金融庁の動きに注目することは、非常に重要なことだと思います。

上場企業のみなさんは、まずは、2018年3月にFinalになる収益認識に関する会計基準」を理解しなければなりません。
非常に難解な会計基準です。

公認会計士でも理解が難しいと思われます。

早めの情報収集と理解を始められることを、強くお勧めします。

以上

関連記事