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第1回 「取締役及び監査役の責任範囲と訴訟リスクについて」|税務会計業務のポイント

第1回 「取締役及び監査役の責任範囲と訴訟リスクについて」|税務会計業務のポイント

 アクタス税理士法人

会社は法人格を有しますが、自然人と違って自ら意思決定や行為をすることはできません。そこで、会社は株主総会の決議によって選任された取締役に対し、会社の業務執行を委任し、監査役に対し、取締役の職務執行の監査を委任します。
受任者である取締役や監査役は、以下のような場合に賠償責任が生じ、訴訟で損害賠償を命じられたときは、与えた損害の全額を賠償しなければなりません。
また、監視義務違反を理由に他の取締役や監査役の行為について、連帯して責任を追求される可能性もあります。

取締役の責任

責任の対象 賠償責任を負う場合 具体例


対会社
取締役として然るべき任務を怠った場合 法令、定款、株主総会の決議などに違反した場合
株主総会(※)の承認を得ずに、会社と取締役との間で競合取引をした場合 家電製品の販売業を営む会社の取締役が、承認を得ずに自己の店で同じく家電製品の販売を開始して、会社の取引機会を奪い、会社に損害を与えた場合
会社と取締役との間で利益相反取引をして、会社に損害を与えた場合 家電製品の販売業を営む会社の商品を取締役が直接会社から購入した場合で、会社の不利益において取締役に有利な価額設定を行い、会社に損害を与えた場合
対第三者 職務を行うにあたり、悪意または重大な過失があった場合 支払見込のない不良取引先へ商品を売り掛け、または、返済の見込のない借主に金銭を貸し付けるなどの行為により会社の経営が悪化し、第三者への支払が不能になった場合

(※)取締役会設置会社における承認機関は、取締役会となります。

監査役の責任

責任の対象 賠償責任を負う場合 具体例
対会社 監査役として然るべき任務を怠った場合 取締役が違法行為をしようとしており、それによって会社に著しい損害を生ずる恐れがあることを監査役が知りながら、放置した場合

対第三者
職務を行うにあたり、悪意または重大な過失があった場合 重大な過失により粉飾決算を発見できなかった場合

職務を行うにあたり、悪意または重大な過失があった場合 重大な過失により粉飾決算を発見できなかった場合

Q&A

Q.取締役と監査役の会社に対する責任は、通常、会社(会社と委任関係にある取締役や監査役など)がその責任を追求しますが、これをしない場合には、取締役と監査役は、会社に対する責任を負わなくてもよいのでしょうか?

賠償責任を負うこととなった取締役や監査役は、会社の受任者として自らの責任を追及することは考え難いことです。また、仲間意識や、個人的な馴れ合いから、あえて他の取締役や監査役に対して訴えを提起しないケースは十分に考えられます。
このような場合、株主代表訴訟により、責任を追及される可能性があります。
株主代表訴訟制度とは、会社法に規定されている制度で、会社が取締役や監査役に対して有する損害賠償請求権を、株主が会社に代わって行使できるものです。

Q.訴訟リスクに備えるために、事前対策として何かできることはないでしょうか?

訴訟による損害賠償リスクを恐れて経営を萎縮していたのでは、積極的な事業展開などできません。ここでは事前対策として、①役員賠償責任保険を利用する方法と、②責任減免条項を定款に明記しておく方法をご紹介いたします。
①役員賠償責任保険を利用する方法
役員賠償責任保険とは、取締役や監査役がその業務に関して、所属する会社や第三者に損害を与えてしまった場合に、個人として負担しなければならない争訴費用や損害賠償金を補償する保険です。
詳細な契約内容については、各保険会社のホームページなどに記載されています。
②責任減免条項を定款に明記しておく方法
会社に対する責任のみに範囲は限定されますが、あらかじめ定款に取締役や監査役の責任減免に関する条項を設けておき、訴訟があった場合には、取締役会の決議で定款に規定した責任限度額まで、賠償責任を減免する方法です。
なお、会社法では、最低責任限度額を以下のように規定しています。

最低責任限度額

役員の区分 減免できない最低責任限度額
代表取締役 会社から受ける報酬の6年分
取締役 会社から受ける報酬の4年分
監査役 会社から受ける報酬の2年分
ただし、定款に責任減免の条項を設けて、取締役会で賠償の減免を決議しても、3%以上の議決権を有する株主の反対があった場合は減免されないので、注意が必要です。

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