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第106回 「相続対策で重要な3つの対策」|税務会計業務のポイント

第106回 「相続対策で重要な3つの対策」|税務会計業務のポイント

 アクタス税理士法人

「相続対策」と聞いたとき、真っ先に思い浮かぶのは「相続税を減らす対策」のことではないでしょうか。しかし、実際に相続が発生した場合に考えなければならないことは、必ずしも相続税のことだけではありません。正しい相続対策には、欠かせない3つの対策があります。次の世代へ財産をつなげるよう早めに対策を検討しましょう。

その1:遺産分割対策

遺産分割対策とは、相続人の間で争いが起きないよう誰にどの財産を引き継ぐか検討し準備する対策です。
実は遺産の分割方法によっては相続税の金額にも影響が出てくるため最も重要な相続対策です。“争族”を避けるためにも、生前に意思をしっかりとのこしておくことが大切です。

【対策例】遺言書の作成
遺言書は本人の意向を生前に残す重要な意思表示の手段であり、原則として法律で定められている規定よりも優先されます。法定の相続人や相続割合以外での相続を望む場合は、遺言書を作成しておきましょう。また、遺言書があれば遺産分割協議が不要になり、迅速に相続手続きを進めることができます。遺言書は、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言があります。

その2:相続税節税対策

相続税額の負担を少なくする対策です。相続税は遺産総額をもとに計算しますので、遺産総額を少なくする対策を行えば相続税額も少なくなります。生前贈与により無税又は相続税の税負担率よりも少ない税負担率で財産を移動させる方法や、預金を不動産にかえるなどで相続税上の評価額を下げる方法などにより、結果として相続税の負担を軽減させることができます。

【遺産総額を少なくする対策例①】 生前贈与
個人間で贈与があった場合、贈与を受けた者(以下「受贈者」といいます)に贈与税が課されますが、受贈者1人につき年110万円までは課税されません。孫5人にそれぞれ100万円ずつ贈与するといったように、この基礎控除をうまく活用して、財産を次世代に引き継いでいきましょう。
また、贈与には様々な非課税措置や優遇措置が用意されています。代表的な制度は以下のものです。
制度
内容 非課税限度額 制度の期限
住宅取得等資金の非課税 20歳以上で所得金額2,000万円以下の者が、両親・祖父母から住宅取得等のための金銭の贈与を受けた場合 住宅種類・新築等契約日に応じて一定の金額+基礎控除額 平成33年12月31日まで
教育資金の一括贈与に係る非課税 30歳未満の者が、両親・祖父母から一定の方法により教育資金の一括贈与を受けた場合 1,500万円 平成31年3月31日まで
結婚・子育て資金の一括贈与に係る非課税 20歳以上50歳未満の者が、両親・祖父母から一定の方法により結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合 1,000万円 平成31年3月31日まで
贈与税の配偶者控除の特例 婚姻期間20年以上の夫婦間住宅又は住宅を購入するための金銭の贈与を受けた場合 2,000万円+基礎控除額

【非課税制度を活用する対策例②】生命保険の活用
生命保険金のうち、「500万円×法定相続人の数」までの金額は、相続税がかかりません。現預金を生命保険金に換えるだけでも相続税額の減少が期待できます。また、生命保険金は受取人独自の財産であり、遺産分割協議の対象にならないため、任意の受取人を指定しておくことで遺産分割対策としても活用できます。

その2:相続税節税対策

その3:納税資金対策

相続税は「現金一括納付」が原則です。遺産のうちに不動産の割合が多い場合や自社株式(非上場株式)の評価が高い場合、相続税が多額になりますが、簡単に換金できず納税資金が足りなくなる恐れがあります。自社株式の評価や相続税シミュレーションを行い、将来どのくらい納税が発生するか事前に把握し、納税資金を手当てしておくことが重要です。納税資金対策としては、生命保険の活用、経営者であれば死亡退職金等の設定などが考えられます。

Q&A

Q1.遺言書を作成しておいた方がいいケースを教えて下さい

A1.下記のような場合には特に遺言書作成の検討をお勧めします。
○特定の人に財産を渡したい場合
 例)子供がいない、妻には自宅をのこしたい、相続人でない孫や内縁の妻に
   相続させたい 等
○遺族の争いを避けたい場合
 例)人間関係が複雑である、兄弟仲が悪い 等
○分割協議手続きが困難である場合
 例)相続人が多数いて集まることが難しい、相続人が高齢である、相続人に
   未成年者がいる 等

Q2.遺言書は3つのものがあるとのことですが、それらにはどのような違いがあるのでしょうか?

A2.遺言書は、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3つがあります。これらは、作成方法や死亡後の取扱い等について違いがあります。メリットやデメリットを理解したうえで、状況に応じて選択しましょう。

  自筆証書遺言 公正証書遺言 秘密証書遺言
作成方法
  • 遺言者が全文を自筆する
  • 作成日付を付す
  • 遺言者が署名・捺印
  • 遺言者が口述し、公証人が筆記する
  • 遺言者、公証人、証人全員が署名・捺印
  • 遺言者が遺言を作成、封印し、公証人及び証人の前で自己の遺言であることを申述する
  • 封紙に遺言者、公証人、証人全員が署名捺印
  • 遺言内容が確認されることはない
メリット
  • 作成が簡単
  • 遺言の存在が知られない
  • 費用がかからない
  • 公証役場が原本を保管するため紛失や偽造の心配が
  • 法律的な不備がなく確実
  • 家庭裁判所の検認が必要ない
  • 遺言の内容は知られないまま、存在のみ証明してもらえる
  • 偽造の心配がない
  • 署名以外は自筆である必要はない
デメリット
  • 紛失や偽造の可能性がある
  • 法律的な不備がありうる
  • 家庭裁判所の検認(遺言書の内容を明確にし、遺言書の偽造等を防止する手続)が必要
  • 証人2人以上の立会を要する
  • 作成に一番費用がかかる
  • 公証人と証人に遺言内容を知られてしまい秘密にできない
  • 紛失の可能性がある
  • 法律的な不備がありうる
  • 家庭裁判所の検認が必要
  • 証人2人以上の立会を要する
  • 作成に費用がかかる

なお、遺言内容が相続人の遺留分(民法上保護されている相続人の最低限の権利)を侵害していた場合、後日遺留分減殺請求が行われ、相続人間でトラブルが生じる可能性があります。将来の“争族”を避けるたには、遺留分を侵害しないような遺言書を作成した方が安心です。

Q3.贈与税の申告をしているので、生前贈与の成立に問題ないと思っていますが大丈夫ですか

A3.民法上、贈与は「当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。」と規定されています。例え贈与税の申告をしていたとしても、贈与者・受贈者双方の合意を説明することができなければ贈与の事実がないと判断され、税務当局から贈与は無効と指摘を受ける可能性があります。よって、贈与の事実を示す書類として必ず贈与契約書を作成し、贈与者・受贈者それぞれが自署捺印することで、「贈与をした」「贈与を受けた」という認識と証拠を明確に残しておくことが重要です。また贈与を受けた預金等の財産(預金通帳・印鑑等)は、必ず受贈者本人が管理するようにして下さい。

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