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第110回 「消費税の軽減税率制度」|税務会計業務のポイント

第110回 「消費税の軽減税率制度」|税務会計業務のポイント

 アクタス税理士法人

平成31年10月1日より消費税及び地方消費税の税率が8%から10%に引き上げられる予定です。その際には、標準税率10%に対して、一定の取引について標準税率よりも税率を低く設定する「軽減税率制度」が導入されます。これにより消費税は「複数税率」制度となります。

軽減税率制度の概要

今回導入される軽減税率制度の税率は8%となります。軽減税率の対象となる取引は「飲食料品の譲渡」と「新聞の譲渡」です。単一税率においては、原則として消費税の課税取引に該当するか否かの判断が重要でしたが、複数税率制度では、課税取引について、標準税率か軽減税率かの判断も必要となります。
さらに経理では、税率ごとに区分した帳簿への記載(区分経理)が求められます。そのために、発行する請求書等には、税率ごとに区分した取引額を記載した「区分記載請求書等」の発行が求められます。

飲食料品の譲渡

軽減税率の対象となる飲食料品とは、食品表示法に規定する食品(酒税法に規定する酒類を除く)をいい、一体資産のうち一定要件に該当するものを含みます。飲食料品は、米や野菜や食肉など「人の飲用又は食用に供されるもの」をいいます。外食やケータリングは飲食料品の譲渡に含まれませんが、テイクアウトなどの持ち帰り販売や、出前、宅配は飲食料品の譲渡に該当し、軽減税率の対象となります。

軽減税率
標準税率
  • 人の飲用又は食用に供されるもの
  • 食品衛生法に規定する添加物
  • 一体資産のうち一定のもの
    (おもちゃ付きお菓子など)
  • テイクアウトや持ち帰り販売
  • 出前、宅配
  • 酒類
    (アルコール分1度以上の飲料)
  • 医薬品、医薬部外品
  • 外食、ケータリング、出張料理

新聞の譲渡

軽減税率の対象となる新聞とは、一定の題号を用い、政治、経済、社会、文化等に関する一般社会的事実を掲載する週2回以上発行されるもので、定期購読契約に基づくものをいいます。なお、インターネットを通じて配信される電子版の新聞は「電気通信利用役務の提供」に該当し、新聞の譲渡には該当しませんので軽減税率の対象とはなりません。

複数税率導入による実務への影響

まずは、軽減税率対象品目の売上や仕入があるかどうかの確認が必要です。当面は、軽減税率の取引を区分記載した請求書の発行が必要となります。平成35年10月からは「適格請求書等」の発行が義務づけられることになります。販売管理システム等の早めの準備が必要です。

 
具体的な確認事項例
売上
  • 軽減税率の対象品目の売上があるかどうか
  • 販売管理システムや請求書発行システムが新たな請求書等の発行に対応できるか
  • 適格請求書等は、発行するためには事前登録し、その発行が義務づけられる認識はあるか
  • 売上価格の表示方法をどのようにするか
  • 複数税率に対応したレジ等の導入をする必要があるか
仕入・経費
  • 軽減税率の対象品目の仕入があるかどうか
  • 軽減税率の対象品目の購入である経費は必ず発生する!
  • 免税事業者からの仕入等についてはいずれ仕入税額控除の適用がなくなる認識があるか
経理全般
  • 現在使用している会計システムは複数税率への対応は大丈夫か
  • 区分記載請求書等保存方式や適格請求書等保存方式(Q2参照)への準備はできているか

Q&A

Q1.飲食料品を取り扱ってないのですが、影響はありますでしょうか。
A1.軽減税率対象品目の売上がなくても、会議での茶菓弁当や贈答用の食品など軽減税率の対象となる品目を購入する場合は対応が必要となります。

Q2.請求書等の記載内容はどのように変わるのでしょうか。
A2.現行制度から平成31年10月からは「区分記載請求書等保存方式」に、平成35年10月からは「適格請求書等保存方式」へと移行します。

詳細は以下ご確認ください。

項目
請求書等保存方式
(現行)
区分記載請求書等保存方式
(平成31年10月~)
適格請求書等保存方式
(平成35年10月~)
税率
8%
標準税率 10.0% 軽減税率 8.0%
仕入税額
控除の要件
帳簿及び請求書等の保存が要件
(免税事業者からの仕入税額控除可能)
帳簿及び区分記載請求書等の保存が要件
(免税事業者からの仕入税額控除可能)
帳簿及び適格請求書等の保存が要件
(免税事業者からの仕入税額控除不可、経過措置あり)
請求書等
交付義務なし(免税事業者も発行可能)
交付義務あり
(免税事業者は発行不可)
記載事項
①発行者氏名又は名称
②取引年月日
③取引の内容
④対価の額
⑤受領者氏名又は名称
左記に加え
⑥軽減税率の対象品目である旨
⑦税率ごとに区分して合計した税込対価の額
左記に加え
⑧適格請求書発行事業者の登録番号
⑨税率ごとの消費税額及び適用税率
(注)なお、区分記載請求書等保存方式の期間では、仕入先から交付された請求書等に⑥や⑦の記載がない時、これら項目に限り、受領した事業者自らがその取引の事実に基づき追記することができます。

Q3.飲食料品に含まれる「一体資産」とは何ですか。
A3.「一体資産」とは、おもちゃ付きのお菓子のように、食品と食品以外の資産があらかじめ一体となっている資産で、その一体となっている資産に係る価格のみが提示されているものをいいます。
一体資産の譲渡等の対価の額(税抜価額)が1万円以下であり、かつ、食品の価額の占める割合が3分の2以上の場合に限り、全体が軽減税率の対象となります。

Q4.飲食料品の販売に際し、使用される包装材や容器等はどうなりますか。
A4.飲食料品の販売に付帯して通常使用されるもので、飲食料品と分離されたときに不要となるようなもの(魚や肉の販売に利用するトレイ)などは、包装材料等も含め軽減税率の対象となります。
贈答用包装など、包装材料等につき別途対価がある場合、飲食料品の譲渡に該当せず、標準税率となります。

Q5.消費税の免税事業者なのですが、対策は必要ですか。
A5.適格請求書等保存方式となると、6年間の経過措置期間はありますが免税事業者からの仕入等が仕入税額控除の対象とすることができなくなります。よって免税事業者は経過措置の間に適格請求書を発行するために課税事業者を選択するかどうかについて判断することになると考えられます。
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