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第123回「海外進出時の税務上のポイント」|税務会計業務のポイント

第123回「海外進出時の税務上のポイント」|税務会計業務のポイント

 アクタス税理士法人

成長しているアジア等の海外市場への進出は、事業を拡大するための有効な手段の一つです。今回は、海外進出を検討する場合の税務上のポイントをご紹介させていただきます。

海外進出時のポイント

海外進出における失敗例は多く、それを回避し、海外事業展開を成功に導くためには、海外進出に関する目的や形態、方法などを事前に充分に検討し、さらには現地調査を行って意思決定を行うことが重要になります。海外進出時のポイントとしては以下の点があげられます。

  1. 海外進出目的を明確にする
    海外進出には経営を左右するリスクも伴うため、まずは自社の状況や課題を客観的に整理し、海外展開の目的を明確にすることが重要です。目的を明確にすることで、事業プランを具体化することができます。
  2. 目的に応じた進出先や進出形態の検討
    海外展開の目的を達成するために適した国や地域選定します。一般的な進出形態としては、駐在事務所、支店、現地法人がありますが、国によって選択できない形態もあります。(次頁参照)
  3. 社会情勢や市場、法律上、税務上の検討事項等の事前調査
    政治、経済、社会情勢、法規制や税制、外資や環境面の規制など、まずは国内において確認可能な調査を行います。公的な支援機関や金融機関、専門家などの第三者機関を利用すれば、効率的に調査を進めることができます。弊社でも各国の専門家と協力した事前調査を支援しております。
  4. 現地調査
    進出の決定に際しては、実際に現地に赴き、事前調査項目の検証、現地のビジネスパートナーや取引先等の見学、ビジネスインフラや物流の整備状況、経済特区の整備状況の確認、市場環境の確認など様々な現地調査を行う必要があります。また、治安状況や医療事情など社員が赴任する際の安全上の問題に関する現地の状況を、自社スタッフの目で確認しておくことも重要になります。
  5. 意思決定
    海外進出の目的、メリットとデメリット、発生が予想されるリスクなどを総合的に勘案し、さらに事前調査や現地調査の結果などをふまえて、海外進出の意思決定を行います。

主要な進出先国の税務のポイント

税制面では、各国の政策により優遇税制や課税リスクに大きく違いがあり、稼いだ利益を日本に還流させる際の影響も大きいことから、あらゆるケースを想定した比較検討が必要です。 (2019年1月現在)

項目 アメリカ 中国 ベトナム タイ インドネシア
法人税率(*1) 平均27% 25%、20% 20% 20% 20%
日本への送金に係る源泉税率(*2) 配当10%,5%,0%
利子10%
ロイヤルティ0%
配当10%
利子10%
ロイヤルティ10%
配当10%
利子10%
ロイヤルティ10%
配当15%,20%
利子10%,25%
ロイヤルティ15%
配当15%,10%
利子10%
ロイヤルティ10%
駐在員事務所 設置可 設置可
企業所得税あり
設置可
期限5年/延長あり
設置可/資本金相当必要(*3) 設置可
海外支店 設置可 原則設置不可
例外有
原則設置不可
例外有
設置可/資本金相当必要(*4) 設置可だが一定業種のみ
その他の特徴点 売上税(州税)課税年度は暦年 外国契約者税
(源泉税)
外国契約者税
(源泉税)
支店→本店の利益送金に課税 支店利益税 20%(減免あり)


「H30経済産業省 中堅・中小企業向け海外展開のための税制基礎資料」「JETRO海外ビジネス情報」より一部抜粋・加工

(*1)アメリカは州税を含むため州により実効税率に変動あり。中国・タイは地方法人所得税なし。インドネシアは段階税率あり。ベトナムは優遇税制等あり

(*2)租税条約を適用した税率を示す。実際の送金時点での各国の国内法による源泉税率と租税条約の源泉税率の確認が必要

(*3)事業開始以後3年間の年間支出額の25%以上かつ300万バーツ以上の資本金が必要

(*4)200万バーツの資本金相当の送金が必要

代表的な海外進出方法

企業が初めて海外に事業展開する場合の代表的な進出方法として、駐在員事務所、海外支店、海外子会社(現地法人)の形態があります。設置する方法により、課税関係が大きく異なるため、事前に十分な検討を行う必要があります。

  駐在員事務所 海外支店(*1) 海外子会社(現地法人)
特徴 収益獲得に貢献しない補助的活動に限定 日本法人の一部門として事業活動 日本法人とは別の法人として事業活動
資本金 不要(例外国あり) 不要(例外国あり) 必要
営業活動 不可
本社と損益通算 不可
日本の申告義務 本社にて合算申告 本社にて合算申告 なし(*4)
現地申告義務 なし(例外国あり) あり(支店部分)(*2) あり
移転価格税制 適用なし 適用あり(*3) 適用あり
その他 中国は企業所得税あり
国により撤退手続が煩雑な場合あり
事務手続が煩雑(申告等)
国により利益送金税あり
支店リスクは本社に及ぶ
国により外資投資規制等あり
親子間取引上留意すべき税制が多い


(*1)支店設置が進出先国の法令上認められていない国もあります。

(*2)進出先国と日本で二重課税となる場合、外国税額控除制度があります。

(*3)本支店間の取引価格は第三者間価格での取引が原則(独立企業間原則)となります。

(*4)日本のタックス・ヘイブン対策税制に該当する場合は、日本の親会社が合算申告する必要があります。

Q&A

Q1.海外に進出する場合、注意すべき税制にはどのようなものがありますか?

A1.主に以下の税制となります。日本と進出先で二重に課税を発生させる税制の適用はできるだけ回避する方法を検討する必要があります。近年、アジア諸国では移転価格の課税事例が増加しています。

  1. 移転価格税制…海外子会社/支店と日本法人とで何らかの取引がある場合
  2. タックス・ヘイブン対策税制…軽課税国に海外子会社を有する場合
  3. 過少資本税制…海外子会社が負債・資本比率が一定割合以上の場合

Q2.海外子会社からの資金回収の方法はどのような方法がありますか?

A2.資金回収の方法は主として配当と利息があり、子会社の資金調達の方法により決まります。
配当や利息に対する現地での源泉徴収や日本側での税制(配当による資金回収の場合、日本側において、外国子会社配当益金不算入制度など)を見越し、進出先国の選択をすることも必要です。

Q3.海外進出したい場合にはどうしたらいいですか?

A3.日本貿易振興機構(JETRO)、中小企業基盤整備機構や商工会議所などに相談窓口があります。弊社でも、加盟しているインテグラ・インターナショナルの各国会計事務所、提携先の弁護士事務所、その他の専門家と協力して、海外進出のお手伝いができますので、お気軽にご相談ください。

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