公認会計士 中田清穂のIFRS徹底解説
中田 清穂(なかた せいほ)
今回は、IFRSを任意適用している企業が、実際にIFRSベースで開示している事例を研究し、今後のIFRSベースの開示に役立てればと考えています。
まず今回は、IFRSの開示について、昨年末に改訂されたIAS第1号「財務諸表の表示」の改訂内容を早期適用しているかどうかをウォッチしたいと思います。
2014年12月18日、IASBが「開示イニシアティブ(IAS第1号の改訂)」を公表し、開示ボリュームが激減できることになったことは、以下のコラムでもご紹介しました。
コラム 第33回 「注記情報の大幅削減が可能に!!」
コラム 第36回 「開示ボリュームを激減させる具体例」
このIAS第1号の適用時期は、2016年1月1日以降に開始する事業年度です。
しかし、「即時適用」が認められています。
企業によって事情があるので、一概にはいえませんが、私の感覚では、企業が財務諸表を作成する現場では、開示内容を削減することは、決算に係るコストを削減し、ミスも削減できるので、早期適用が認められるのであれば、躊躇することなく早期適用するのが合理的だろうと思います。
さて、今回は、IFRSを適用している3月決算の企業のトップバッターとして、6月4日に有価証券報告書を提出したHOYAを取りあげたいと思います。
HOYAの有価証券報告書の84ページ目を見ると、以下の開示があります。
IFRS | 強制適用時期 (~移行開始年度) |
当社グループ適用時期 | 新設・改訂の内容 | |
IAS第1号 | 財務諸表の表示 | 平成28年1月1日~ | 平成29年3月期 |
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HOYAは、「開示イニシアティブ(IAS第1号の改訂)」の早期適用をしなかったということです。
「新設・改訂の内容」の3行目後半を見ると以下の記載があります。
「情報に重要性がある場合のみ、IFRSで具体的に要求される開示を提供すべきであること」
すなわち、早期適用をしなかったということは、今回の有価証券報告書では、重要性がない場合も開示したものがありうるということです。
結果的に、投資家等の利用者の意思決定に不要な情報を記載することで、重要な情報が見えにくくなったまま放置してしまっているということなのです。
今後提出を予定している企業の有価証券報告書も、このような観点でウォッチしていきたいと思います。
中田 清穂(なかた せいほ)
青山監査法人にて米国基準での連結財務諸表監査に7年間従事。
旧PWCに転籍後、連結経営システム構築プロジェクト(約10社)に従事。
その他に経理業務改善プロジェクトや物流管理プロジェクトにて、現場業務の現状分析や改善提案に参画。
旧PWC退社後、DIVA社を設立し、取締役副社長に就任。DIVA社退社後、独立。