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第54回「金融商品としての売掛金の開示」|IFRS徹底解説

第54回「金融商品としての売掛金の開示」|IFRS徹底解説

 中田 清穂(なかた せいほ)

「金融商品」というと多くの人が、株式や公社債などの有価証券や複雑なデリバティブなどをイメージするのではないでしょうか。

ところが、売掛金や買掛金などの営業債権や営業債務も「金融商品」に含まれます(IAS第32号11項及び同適用指針AG4項)。

現在日本で進められているIFRS対応プロジェクトでは、IFRSの基準が広範囲にわたることから、優先順位をつけて自社への影響が大きいと思われる有形固定資産や収益に関連する基準から対応することが多く、一部基準の改訂が完了していない金融商品に関する検討は後回しになっているようです。

特に、製造業などで「財テク」を行っていない企業では、複雑なデリバティブなどを行っていないことから、この傾向が顕著です。

しかし、さきほど触れたように、営業債権や営業債務も金融商品ですので、債権や債務を管理する業務やシステムに影響を及ぼす場合が多いので注意が必要なのです。

特に注意を要するのが「開示」に関する規定です。

IFRS第7号「金融商品:開示」では、以下のような項目の開示を要求しています。
(ただし重要性のないものは開示不要です)

  1. 役員会等(最高経営責任者)に提供しているリスク情報(第34項(a))
  2. 支払期日前の債権の信用度別の残高(第36項(c))
  3. 滞留債権の年齢分析(第37項(a)
  4. 買掛金を含む金融負債の満期分析(第39項(a))
  5. 売掛金や買掛金を含む金融資産・負債に関連する、為替レート、金利や株価などのリスク変数の変化によって、純損益や自己資本残高がどれだけ影響を受けるのかを示す感応度分析(第40項(a))

これらはいずれも「債権債務残高管理」というより、「リスク管理」と言えるでしょう。

IFRSの主旨は、企業の経営者が、自社のリスクをきちんと把握しているかどうか、そのリスクの影響がどのくらいあると認識しているのかということを開示させて、リスクに対する経営姿勢を投資家が判断できるようにしているといえるでしょう。
自社のリスクをろくに把握していない経営者が経営する会社には、危なくて投資できないでしょう。

したがって、これらの開示は、経理部門や財務部門だけではなく、リスク管理室、営業部門、購買部門や経営企画室など、社内の広範囲の組織に関連があると考えることが大切だと思います。

また、システムへの影響としては、債権管理システムや債務管理システムからのデータが重要になるでしょう。
したがって、システム対応をする場合には時間がかかることも想定されるので、「うちは製造業で、複雑な金融商品はない。だから、『金融商品』関連の基準は後回し」などと、短絡的に決めつけないように注意していただきたいと思います。

なお、これらの開示情報については、重要な子会社からの報告が必要なことにもご留意ください。
以上

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