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第88回 「平成28年「年末調整」の留意事項について」|マイナンバー制度の導入による注意点

第88回 「平成28年「年末調整」の留意事項について」|マイナンバー制度の導入による注意点

 アクタス税理士法人

サラリーマンの所得税は、12月最後の給与の支払いにより年間の給与収入額が確定します。会社は、従業員の所得税を確定する手続きを行いますが、それが「年末調整」です。給与・賞与から源泉徴収した税額と確定税額の差額の精算を行います。給与等の源泉所得税はやや多めに徴収されていますので、精算は還付になることが多いです。平成28年分の年末調整はマイナンバー導入初年度ですので、以下の点に留意して進めてください。

マイナンバー制度の導入による注意点

  1. 年末調整書類について
    給与の支払者に対して提出する年末調整関係書類のうち、給与所得者の保険料控除申告書や配偶者特別控除申告書、住宅借入金等特別控除申告書については、平成28年4月1日以後提出するものからマイナンバーの記載が不要とされています。また、平成29年1月1日以後に支払を受けるべき給与等について提出する「給与所得者の扶養控除等申告書」は、その支払者が提出者本人等のマイナンバーを記載した帳簿等を備えているときは、マイナンバーの記載を必要としないこととされています。
  2. 源泉徴収票の様式変更
    平成28年分給与所得の源泉徴収票については、マイナンバー制度の導入等に伴い、レイアウトや記載項目等に大幅な変更があります。また、用紙の大きさも、従来のA6サイズから2倍のA5サイズに変更されています。平成27年分以前の旧様式を使用することはできませんのでご注意ください。
  3. 源泉徴収票へのマイナンバーの記載
    税務署へ提出する源泉徴収票についてはマイナンバーの記載は必要ですが、本人に対して交付する源泉徴収票には、マイナンバー(支払者の法人番号を含む)の記載はしません。

通勤手当の非課税限度額の変更

平成28年1月1日以後に支払われる通勤手当の非課税限度額が10万円から15万円に引き上げられました。この改正の施行が平成28年4月1日であったことから、実務上1月~3月の通勤手当は旧規定を適用したところで源泉徴収がされています。そのため、新規定を適用した場合との差額を年末調整によって精算する必要があります。なお、施行日である4月1日以後に支払われる通勤手当について、誤って旧規定による源泉徴収を行って過大徴収となっている場合には、年末調整による精算ではなく、誤納還付請求の手続きを行う必要があります。

区分 課税されない金額
改正前 改正後
1 交通機関又は有料道路を利用している人に支給する通勤手当 1ヶ月当たりの合理的な運賃の額(限度額10万円 1ヶ月当たりの合理的な運賃の額(限度額15万円
2 自動車等の交通用具を使用している人に支給する通勤手当 改正なし
3 交通機関を利用している人に支給する通勤用定期乗車券 1ヶ月当たりの合理的な運賃の額(限度額10万円 1ヶ月当たりの合理的な運賃の額(限度額15万円
4 交通機関又は有料道路を利用するほか、交通用具に使用している人に支給する通勤用定期乗車券 1ヶ月当たりの合理的な運賃の額(限度額10万円 1ヶ月当たりの合理的な運賃の額(限度額15万円

国外に居住する親族に係る扶養控除等の適用

平成28年度年末調整では、1年以上の長期留学するご子息や単身で来日し働いている外国人従業員の現地家族など、非居住者である親族(「国外居住親族」といいます。)について、扶養控除等の適用を受ける場合には、「親族関係書類」及び「送金関係書類」を源泉徴収義務者に提出や提示する必要があります。

≪親族関係書類≫
次の1、2のいずれかの書類で、国外居住親族が居住者の親族であることを証するもの

  1. 国籍の附表の写しその他の国等が発行した書類及び国外居住親族のパスポートの写し
  2. 外国政府等が発行した書類(国外居住者の氏名、生年月日及び住所等の記載があるもの)

≪送金関係書類≫
居住者が国外居住親族の生活費等のための支払を都度行ったことを明らかにするもの

  1. 金融機関の書類又はその写し
  2. クレジットカード発行会社の書類又はその写し

Q&A

Q1.源泉所得税の誤納還付請求の手続きを教えてください

A1.「源泉所得税及び復興特別所得税の誤納額還付請求書」を作成し、次の1、2の添付書類とともに納税地の所轄税務署へ提出してください。提出時期は特に定められていませんが、納付した日から5年間の間に提出しないと、時効により請求権が消滅します。

  1. 還付を受けようとする税額を納付した際の徴収高計算書の写し
  2. 誤納額が生じた事実を記載した帳簿書類の写し(例-総勘定元帳の「預り金」勘定)

Q2.通勤手当の非課税限度改正後に旧規定の源泉徴収をしていた時は、本人とどう精算するのでしょうか

A2.会社が4月以降に、旧規定によって過大に源泉徴収していた税額は、本来は年末調整とは関係なく従業員に還付することになります。過大徴収した源泉所得税は、そのまま過大に納付されているはずですので、会社は、その過大納付分を「誤納還付請求」を行い還付してもらいます(上記Q&A参照)。年末調整前における従業員が源泉徴収された税額の合計額は、4月以降は、改正後の非課税限度額を適用した場合の源泉徴収税額となりますので注意が必要です。なお、1月から3月分の源泉徴収税額は、旧規定の非課税限度額を適用した源泉徴収税額をそのままで年末調整まで処理を進めていただいて大丈夫です。

Q3.「国外居住親族」の対象となる親族の範囲を教えてください

A3.所得税法における「親族」は、民法の規定による親族、すなわち、6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族とされています。これは、国外居住親族の場合も同じです。

Q4.「親族関係書類」と「送金関係書類」はいつ提出(提示)すべきものでしょうか

A4.扶養控除等申告書を給与等の支払者に提出する際に「親族関係書類」を提出(提示)し、年末調整を行う際に「送金関係書類」を提出(提示)する必要があります。
なお、「親族関係書類」について、その提出が遅れた場合には、あくまでもその提出(提示)がされた後、最初に支払われる給与等から扶養控除等を適用して源泉徴収税額を計算することになります。

Q5.源泉所得税の関連で、平成29年1月1日から適用される改正事項はありますか

A5.平成29年分の所得税の計算において、給与収入1,000万円超の場合の給与所得控除額は220万円が上限とされました。この改正に伴い、「給与所得の源泉徴収税額表(月額表、日額表)」及び「賞与に対する源泉徴収税額算出率の表」等が改正されましたのでご注意ください。
平成29年1月1日以後に支払を受けるべき給与等について、その支払者が提出者本人等のマイナンバーを記載した帳簿等を備えているときは、「退職所得の受給に関する申告書」や「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」についてもマイナンバーの記載を要しないこととされました。「給与所得者の扶養控除等申告書」と同様の取扱いとなります。

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