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第94回 「海外勤務者の税務上の留意点」|居住者と非居住者の区分と課税所得の範囲(確定申告や住民税等について解説)

第94回 「海外勤務者の税務上の留意点」|居住者と非居住者の区分と課税所得の範囲(確定申告や住民税等について解説)

 アクタス税理士法人

国内に住所等を有する者が居住者であるのに対して、国内に住所や1年以上居所を有しない者は非居住者となります。従いまして、1年以上の海外勤務予定で出国する場合には、出国した日の翌日から非居住者となります。

居住者と非居住者の区分と課税所得の範囲

居住者と非居住者では、課税される所得の範囲が異なります。居住者は所得の発生地にかかわらず、全世界の所得に課税がされますが、非居住者は日本国内で発生した所得(国内源泉所得)のみに所得税が課税されます。

居住形態 区分 国内源泉所得 国外源泉所得
居住者 1年未満の予定で海外勤務 課税 課税
非居住者 1年以上の予定で海外勤務 課税 非課税

非居住者として出国する前の税務上の留意点

  • 年末調整について
    非居住者となる海外勤務者に対しては、居住者であった期間における所得税を確定するために、会社は出国時までに年末調整を行う必要があります。
項 目 内 容
給与 1月1日から出国する日までの給与
社会保険料控除、生命保険料控除、地震保険控除 1月1日から出国する日までに支払った金額
配偶者控除、扶養控除等 出国日の現況により判断
雑損控除、医療費控除、寄付金控除 適用を受けるには確定申告が必要
  • 確定申告について
    非居住者となる海外勤務者に不動産所得等がある場合には、出国日までの所得に対して確定申告が必要となります。但し、出国日までに納税管理人を定め、納税管理人の届出をした場合には、通常通り、翌年3月15日までに確定申告をすることになります。なお、出国日の翌日以降の非居住者になった期間における不動産所得については、国内源泉所得に該当するため、確定申告が必要になります。従って、非居住者である海外勤務者で、確定申告が必要となる者におきましては、納税管理人の届出を提出するのが一般的です。
  • 住民税の取扱い
    非居住者となる海外勤務者に対して、出国後においても日本から給与を支払する場合には、会社が継続して特別徴収を行って住民税を納付することになります。それ以外の場合には納税管理人を定め、普通徴収の方法により住民税を納付することになります。実務上は、会社が海外勤務者に支払う出国前の最後の給与から未徴収の住民税を預かって納付するか、普通徴収に切り替えて、配偶者など親族が納付書で支払うケースが多いです。
  • 赴任支度金の所得税法上の取扱い
    海外勤務に伴い準備のために支給する赴任支度金等は、通常必要と認められる範囲内であれば非課税とされます。
  • 語学研修費の所得税法上の取扱い
    語学研修費は、海外勤務者が自己の業務遂行上の必要に基づき知識を習得させるためもので、その金額が適正なものである限り、非課税となります。また、海外勤務者の配偶者に係る語学研修費は、海外勤務者に係る費用ではないため、原則として課税されます。しかしながら、配偶者は会社の業務に関連する行事に参加したり、会社の業務に補助的に従事したりすることがあります。そのため、配偶者に係る語学研修費についても、業務の遂行上必要なもので、金額が適正なものである限り、非課税として取り扱っても差し支えありません。

Q&A

Q1.日本法人の役員が海外勤務する場合の役員報酬について注意すべき点を教えてください。

A1.日本法人から支給される役員報酬は、国外勤務に対して生じたものであっても、日本国内で生じたもの(国内源泉所得)として日本で課税されます。役員の職務は企業経営なので、原則として日本法人の役員報酬は、実際の勤務場所にかかわらず、すべて国内源泉所得として課税するものとされています。また租税条約でも、国内法と同様に法人所在地国で課税するのが一般的な取り扱いとなります。

Q2.1年以上勤務予定であった方が1年未満で帰国することになった場合の居住形態を教えてください。

A2.1年以上の予定で海外勤務したが、やむを得ない事情により、勤務期間が1年未満となった場合には、予定が変更になった時点で居住者に該当することとなります。

Q3.非居住者である海外勤務者が退職し、退職金を受給した場合の課税関係について教えてください。

A3.居住者としての勤務期間に対応する分(国内源泉所得)の退職金は20.42%の源泉徴収による源泉分離課税で完結します。非居住者に対する退職所得の計算においては「退職所得控除」の適用がありません。従って、仮に、居住者に対する退職金として退職所得控除を適用したものとして計算された所得税額が、その源泉徴収税額よりも少額であるときは、確定申告を行うことにより、差額の還付を受けることができます。

Q4.居住者が短期で海外勤務した場合に、相手国から課税を受けることはありますか?

A4.日本と租税条約を締結した国に居住者が短期間滞在し勤務する場合には、滞在期間が183日を超えないことや、給与支払者が勤務国の居住者でないことなどの要件を満たせば、滞在地国における国内源泉所得に該当する給与所得課税が免除されることがあります。この規定は一般に「183日ルール」と呼ばれており、日本が締結している租税条約のほとんどに、この規定があります。

Q5.非居住者である海外勤務者は、日本の社会保険に継続して加入することができますか?

A5.日本の企業から給与の一部又は全部が支払われている場合には、社会保険(健康保険・厚生年金保険・雇用保険)を継続することが可能です。なお、海外勤務中の労災保険は原則的に適用対象外となりますが、海外派遣者特別制度を利用すれば、労災保険を適用することができます。なお、非居住者に対して日本から支払われる給与は原則として国外源泉所得に該当するため、日本では課税されません。

Q6.海外勤務する際に勤務地国の社会保険制度に加入する必要がありますか。

A6.社会保障協定を締結している国に勤務する場合で、勤務地国の海外勤務期間が5年以内と予定されるなど一定の要件を満たす場合には、日本の社会保険制度のみ加入し、勤務地国での加入が免除となります。一方、勤務地国での海外勤務期間が当初から5年を超えると見込まれる場合は、日本の社会保険制度を脱退し、勤務地国の社会保険制度に加入することになります。なお、勤務地国の社会保険制度に加入した場合においても、Q5に該当する場合、日本の社会保険に継続して加入することができます。

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